メンテナンスのご案内
機能が低い状態で使用し続けると1回当たりの費用がかさみ、トータル金額も高くなる

図1は国土交通省が作成したインフラ老朽化対策における、事後保全と予防保全のサイクルイメージです。「インフラ」の中には橋梁やトンネルだけでなく機械設備も含まれますので、工場の設備でも考え方は同じです。
図の赤い線のように、機能の健全性が下がり切ってからメンテナンスを行なう事後保全では、予防保全に比べてトータルコストが高くなる上に、設備を健全な状態で使用できる期間が少ないことが分かります。また、事後保全では一回ごとのMTTR(平均復旧時間)も長引き、ダウンタイムが長くかかっていることが想像できます。何より、事後保全によって生じるダウンタイムの多くは、突発的な故障により発生する「計画外ダウンタイム」です。計画外ダウンタイムで発生するコストは計画的なダウンタイムで発生するコストよりはるかに大きいと言われています。
図の青い線のように予防保全によって定期的なメンテナンスを実施することで、トータルコストを低く抑えられ、設備を健全な状態で使用することができます。設備を健全な状態で使用できることの効果は、単に「機械の調子が良い」という結果に留まりません。突発的な故障の発生回数を防ぎ、高額の修理費用や計画外ダウンタイムの発生を減らすことができ、生産機会の損失を低減することにつながります。また、見落としがちですが、整備不良による事故が発生する可能性も抑えられます。
事後保全と予防保全で費用の合計が大きく変わる例:インフラ(道路・橋梁)の場合


図2は国土交通省作成したインフラ老朽化対策における、将来の維持管理費・更新費の推計結果です。予防保全のインフラメンテナンスサイクルを確立できた場合、事後保全に比べて30年後のコストは約5割縮減でき、30年間のトータルコストも約3割縮減できる計算になっています。
ダウンタイムとコストの計算
機械の故障に起因するダウンタイムで発生するコストを試算してみます。多くの企業がダウンタイムのコストを正確に把握できていないと言われています。
ダウンタイムコストは、停止時間(分)×1分あたりにかかるコストで算出します。1分あたりに発生するコストは業種や企業規模によって異なりますが、企業規模が大きくなるほど高額になります。
例えば、ダウンタイムによって影響を受ける可能性のある要素は下記の通りです。
- 失われた生産量:ダウンタイムを含む通常の生産能力から、実際の生産量を差し引いて算出します。
- 設備の損傷:ダウンタイムの原因が設備の故障である場合、修理費用や交換費用が含まれます。
- 人件費:ダウンタイム中の従業員の給与や、復旧作業にかかる人件費。また、生産の遅れを取り返すための残業代や設備の稼働費用(電気代)など。
- 最稼働費用:設備の再起動や調整にかかる費用、材料のロスなど。
- 逸失利益:納期の遅延などによる顧客への違約金や、機会損失の費用。
- 品質への影響:ダウンタイムが製品の品質に影響を与える場合、余分にかかる検査費用や廃棄費用。
製造業の例をあげると、自動車の完成車工場では1分間あたりのダウンタイムコストは300万円にも及ぶと言われます。欧米では一般にダウンタイムコストは1分あたり1500ドルから2500ドルと言われています。日本円にして約21万円から35万円の損失になります。
ただ、日本の多くの製造業では、ダウンタイムで失うコストは設備の修理費用とそれを直す人件費に限って考えられる傾向があります。そのため、日本ではダウンタイムコストは分あたり2~3万円程度と考えられており、大きな損失に気付いていないという現実があります。
とある中小の機械メーカの工場で、複数あるコンプレッサのうち1台が停まった場合を想定してみましょう。エアー配管の繋ぎ直しに半日(4時間)かかってしまい、その間はエアーの供給ができず、生産が停まってしまいました。
工場が停止している間に1分あたり最低21万円の損失が発生していたとすると、60分×4×21万円で、損失の総額は5,040万円になります。突然生産が停まってしまうことによる影響の大きさがおわかりいただけたでしょうか。